「あげる」という漢字は論文・小論文でも頻出の漢字です。ですが、使い分けがしにくい漢字でもあり、悩みやすいところでもあります。漢字それぞれにいくつかの意味が含まれているため、理解しにくいのですが、関連する熟語を一緒に覚えておくと比較的使い分けしやすくなります。それでは、「上げる」「挙げる」「揚げる」のそれぞれの意味の違いや例文について解説していきます。
「上げる」「挙げる」「揚げる」の違い
手をあげるは「挙げる」が正しい
「手をあげる」は挙手のことであり、「分かった人は手をあげて」「質問がある人は手をあげて」などというように、手を高く掲げて自分の意思を示したり、特別に目立たせたりするためにする行為です。そのため、「挙げる」という表現を使いましょう。
「上げる」の例文
物を高い位置に移動するので、「上げる」になります。「炎上」など炎が低い位置から高い位置に移動する様子を思い浮かべてみましょう。そのほかにも、高い位置から低い位置に移動する時は反対語の「下げる」が使えるかどうかで判断するといいでしょう。ちなみに「価値を下げる」といえるので、「価値をあげる」のあげるは「上げる」となります。
実際に物が移動したわけではありませんが、今いる地位からさらに上の地位に移動したことになるので「上げる」を使います。
「仕上げる」のあげるは「きちんと終わらせる」という意味なので、「上げる」を使います。そのほかにも「調べ上げる」「縛り上げる」なども同じニュアンスになります。複合動詞で使われることも多いのですが、「予算内でうまく上げられた」など複合動詞にならない場合もあります。「予算内でうまく上げられた」はその範囲内でまかなうというニュアンスになります。
「挙げる」の例文
目立たせて掲げることから「挙げる」を使います。「具体例をあげる」時も、特定のものをとりあげるところから「挙げる」を使います。たくさんの特定の人の名前を並べて出すときには「列挙」というため、「挙」の漢字は目を惹く、並べるというニュアンスがあります。ですが、「上げる」を使って「名を上げる」となると、地位を今の位置からさらに高い位置に移動する意味となるため、何かいいことをして世間から今より高い評価を得ることを意味するようになります。
式典を執り行う、実施することなので、「挙げる」を使います。ちなみに挙式といういい方もありますが、「挙式を挙げる」というと「挙」が重複表現となるため正しくありません。
「国を挙げて」は「こぞって」という意味になります。国中足並みをそろえてというニュアンスとなるため、「挙げる」を使います。
「揚げる」の例文
えびのフライだと高温の油で調理するというところから「揚げる」になりますが、「フライを上げる」となると、野球のフライ(打者が空中にボールを高く打ち上げること)ということになります。
「揚」の漢字になると、船から陸に荷物を運ぶことになります。そのため、「荷揚げ」のバイトとなると、湾岸付近で働いているというイメージになります。ですが、「荷上げのバイトをしました」となると、例えば地面からトラックに荷物をあげるなど、低いところから高いところに物を移動するというニュアンスとなり、必ずしも船のある場所とは限りません。
「高揚する」ということなので、「気分をあげる」は「揚げる」を使います。そのほかにも、同じく気分や調子を高めるというニュアンスで「声のトーンを揚げる」「調子を揚げる」なども「揚げる」を使います。
論文・小論文で「上げる」「挙げる」「揚げる」を使い分ける視点
論文・小論文では「揚」という漢字は「高温の油の中で調理する」意味以外は「上げる」を使ってもいいことになっています。そのため、「揚」は「高温の油の中で調理する」、「上げる」は移動、完了を表すかどうかを目安にするといいでしょう。「挙げる」は目立っているかどうかという点に注目してみましょう。「上げる」は反対語「下げる」といえるものに多く使われますが、「手を挙げる」だけは、「手を下げる」も言えるため、これは例外として見る必要があります。ちなみに、「あげる」にはもうひとつ「本をあげる」など「プレゼントする」という意味の「あげる」があります。これは、「敬うべき相手に物をさし上げる」という意味で「上げる」を使うこともありますが、「本をあげる」という言葉の中にはそういうニュアンスがない場合もあるため、最近では漢字を使わず、ひらがなでそのまま表記するのが一般的です。